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2006年 03月 05日
● 大傑作です。今世紀に入ってからの香港映画を代表する一本だと言い切れます。『マトリックス』以降の安易なワイヤーアクションに対するアンチテーゼであり、『マッハ!』をはじめとするタイアクションへの宣戦布告です。こういう球を投げ返せるのだから、香港映画界はエライ!
ドニーがトニー・チャーを見て考えたことを推察するに、ただよりハードなアクションだけで球を投げ返しても意味がないということだったのではないでしょうか。京劇から連綿と続く流れるような殺陣、70年代の残酷路線と80年代の香港ノワールを経て『インファナルアフェア』にまで続いている暗くて深いドラマの系譜。そういった今まで培ってきたことを組み合わせて、さらにバーリトゥードファイトなど新たな要素を組み込んだ総合点で勝つ。そんなことをめざし、そしてそれが成功しているのが今作なのですね~。贅沢です。しかもこれだけの要素を劇中僅か数日中に詰め込んでいるので中だるみ一切なし! ● まず『マッハ!』と違うのは、登場人物の善悪が曖昧であることです。刑事たちのキャラクターは私が大好きなエルロイの刑事たちを彷彿とさせるゆがみを持った男たちです。彼らの行動は見ていて胸が悪くなるような悪辣さすらあります。しかしそんな彼らをかき立てるものが何かを理解すれば、むかつきがなんともいえない哀切さとなって迫ってくるのです。 一方のサモハン演じるボスは、悪逆非道ながらも家族愛と侠気に溢れたまさしくビッグボス。こういう陰翳のあるキャラクターが物語りを深くしています。さらに伏線の張り方や携帯電話をはじめとする小道具の使い方も巧みで、サモハンが脚本を見て出演を決めたのも納得ができます。 ● アクションシーンは、これほどまでに見ていて痛い映画というのもなかなかお目にかかれません。真っ白い服に身を包んだ呉京が闇の中を飛ぶように現れるあの戦慄。彼は「殺し屋」の動きです。刺されるとまず助からない腹部をドスッと突くいう暗殺の王道を行きます。こいつに狙われたらまず助からないと絶望的な気分になるほど。また登場の仕方が予測が付かずに大変心臓に悪い! 残虐さと流れるような動き、それに無邪気そのものの笑顔に白装束(彼自身、自分の顔がかわいいと自覚しているそうですが)。こういう人にだけは命を狙われたくないな、としみじみ思わせます。ちなみに今回思ったこととして、香港人にとっての冷酷非情な悪党はかつての日本人から大陸人へとシフトしているのではないか、ということでした。 ドニーは重さのあるパンチです。その重さとは体重とかそういう物理的な重さではなく覚悟の重さです。彼は正義感に溢れたまっすぐな男。ここぞという時にしか暴力は振るいません。その怒りと相手へのやるせなさが拳に宿っているように見えます。そういう感情までアクションに出せるのは並大抵のことではありません。電光石火の蹴り技だけではなく、豪快なプロレス技まで取り入れているのは見事! あと今回の彼は衣装が今まででベストではないかと思うほど決まっていました。全身黒、特にサングラスと革ジャンが最高! ドニーさんはなんでこんなにいい男なのでしょうか。でもちょっと十年後の彼はかつての羅烈ポジションになるかなと思えてきたり。年齢を重ねたら今のジェットと彼の位置が逆転するというか、ひょっとしてドニーさんは貫禄が出てきたほうが光るかもと一瞬思いました。ええ、もちろん今回も輝いていましたが! サモハン。私たちの意識では巨漢は動きが鈍いというのがあると思います。でもサモハンは実に俊敏なのです。あの速さであの巨体であのパンチが来たら、顎が陥没するのではないか。そんな風に思わせる迫力があるます。大きいことは迫力です。あの巨体がスクリーンの中を飛び交っているだけで背筋冷や汗が流れます。途中で刑事が数人でやっと彼を抑えつけるシーンがあるのですが、本当に猛獣のように見えました。特にビール瓶片手に階段を下りてくるところと、鉄格子に相手の手を押しつけて握り潰すシーンはなんともいえない恐怖。いや、全編恐いのですけれども。 それにしてもサモハン、紫の三揃えスーツに葉巻が似合うこと。私の中で「最もヤクザらしく見える俳優ベストスリー」第二位は彼がランクインしました(一位は永久にジミーさんです、念のため)。家族と電話している間の慈父そのものの目つきから、一瞬にして大魔王といった風情になるのは恐いとしかいいようがありません。夢に出てきそうです。 ● これはもっと上映館多くていいと思うんですけどね~。アクションだけではなく、ドラマパートも実にいい出来ですよ。私の好みとしては『インファナルアフェア』以上。あと「仏像が大事なタイ」に向かって「父子愛」で返したのもおもしろいところですね。見終わると戦慄しつつも父親に電話をかけたくなるようなしんみりと情に訴えかける部分もあったりして。こういう映画ができるのだから、香港はまだまだ安泰。そして安易なワイヤーブームには乗らず、タイ映画に迫られたピンチの時にこういう映画を作ってしまったドニーやサモハンのような人材こそ、香港映画界の宝なんでしょうね。タイ映画の隆盛が香港の危機感を刺激してこういう作品が生まれたのは嬉しい限りです。これからも切磋琢磨してがんばっていただきたいですね~。DVD購入決定。 補足 映画そのものは最高でしたが、前の扉を開けて出入りしたうえにハイヒールをこつんこつん鳴らしながら歩き回る女性や、上映中ずっと大声で喋っているオッサン二人組がいたのは興ざめです。オッサンたちは競馬新聞片手にどうやら酔っぱらっていたようですが。私がもしドニーだったらスープレックスかましてるな、と思いました。あと個人的事情で遅刻したのも残念。また見てもいいな~。
by kizurizm
| 2006-03-05 22:06
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